どのような点が省エネなのでしょうか

わさびは一般的に山の綺麗な湧水がある場所でしか栽培できないというイメージがありますが、当社のプラントは地下水があればどこでも栽培できるため、これまでの概念を大きく変えたと自負しています。
プラントの設計には本業の土木技術を隅々まで活かしており、地下水の汲み上げ以外には、電気を一切使っていません。ハウス内にパイプを這わせて、汲み上げた地下水をパイプの穴からわさびの根元に直接かけ続ける仕組みとなっているのですが、プラント内を上段と下段に分けて、モーターを使わず、高低差だけで均等に水量が行きわたるようにしています。これはそう簡単にできるものではなく、高さなどを計算し尽した技術の結晶です。また、地下水を利用しているため、外気温にかかわらず水温が一定しており冷暖房が必要ないという特徴があります。露地物のわさびは気温の低い11月~3月の間は成長が止まりますが、当プラントでは水温が年間を通してあまり変わらないため、冬の時期でも成長速度が変わらず、通常3年かかる大きなわさびを2年で育てることができます。
わさびの栽培は肥料が不要で水に含まれるミネラルで育ちますが、当プラントでは24時間水をかけっぱなしにし、常にわさびに栄養を与え続けています。またできる限り水を節約しているため、わさびは自らより多くの水を集めようと大きく根を張り、根が大きくなることでわさび自体も大きくなるという植物の相乗効果が発生する仕組みになっています。この栽培方法が育成に効果的だということを知っていたわけではなく、偶然に大きく育ちました。前例がなく誰も教えてくれなかったことが、結果的にはプラスに働いているように感じています。
プラントについては特許を取得し、これまでに柏崎市の石地わさび園(㈱土佐工務店が運営、新潟大栄信組取引先)に販売したほか、昨年10月に高知県の四万十市からの要請を受け、テストプラントの建設を行いました。今後も可能な限り全国に広めていきたいとの思いは強くありますが、まずは、新潟県で広めていきたいと考えております。新潟県は水が豊富であることから、農家の人たちが休耕田を使って積極的なわさび栽培をするようになれば、将来的にはわさび王国になる可能性を秘めているものと感じています。

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<SKフロンティアの社員となった海洋高校の卒業生>

わさびの栽培以外にも進出していると聞きましたが

2012年ころ、糸魚川信組(以下、〈いとしん〉)の石井支店長(現営業推進室長)から新潟県立海洋高校を紹介されました。糸魚川市にある海洋高校は、授業の一環として真昆布や魚の養殖の実習を行っておりますが、養殖した真昆布の使い道について相談を受けました。そこで、新潟発祥の「へぎそば」(つなぎに布海苔を使った蕎麦)からヒントを得て、真昆布の粉末をうどんに練り込ませることを提案したところ、半年ほどの共同開発を経て「真昆布うどん」が完成しました。当商品は、風味があって喉ごしが良いことから、当社のヒット商品の一つとなっています。
〈いとしん〉の橋渡しをきっかけに、2015年から海洋高校と共同で魚の養殖も始めています。また、その縁で海洋高校から2人の社員を採用しております。2人とも魚が大好きで、魚の餌やりをしている時は至福の顔をしています(笑)。

どのような方法で何の魚を養殖しているのですか

わさび栽培には毎分4トンもの地下水を使用しますが、当初はこの水を川に流していました。地域資源である水を無駄にしたくないとの思いから、この水を利用できる魚の養殖に気がつき、わさび栽培と並行して魚の養殖事業を始めました。わさび栽培で使用した地下水は、年間を通して低い水温が維持されるため、寒冷地の魚が養殖できるというメリットやわさびの栽培過程ではアンモニア・窒素などの不純物を吸収し、魚が病気になりにくく成長が早く味も良いというメリットも発見しました。
魚の養殖場も土木技術を活かして設計・建設をしたため、わさび栽培に使った水が自動で流下する仕組みになっており、一切電気を使わずにすんでいます。
養殖しているのは、チョウザメ・イトウ・銀鮭です。チョウザメは7~8年経てばキャビアが取れるようになります。養殖を始めてから4年が経ちますので、あと4~5年ほどでキャビアが取れれば花が咲く、まさに「夢の魚」です。
イトウは、成魚になるまでには時間のかかる魚で、しかも冬場は水温が低いと餌を食べないので成長が遅くなるのですが、当社は地下水を環流させ水温が年間を通して一定であるため、冬でも餌をよく食べることから他の養殖場よりも倍のスピードで成長しています。イトウは現在北海道の一部地域でしか生息しておらず、絶滅危惧種に指定され幻の魚と呼ばれています。奇しくも和名は「糸魚」と書くことから、「糸魚川」の特産として、イトウをこの地に根付かせようという採卵孵化プロジェクトを海洋高校とともに進めています。
チョウザメの養殖に当たり、当初100トン水槽を6基作りましたが、水槽が余ったため銀鮭の中間養殖も始めました。銀鮭は比較的養殖期間が短く、1年で成魚となるため年間を通して出荷できるのが魅力です。今後は銀鮭の完全な陸上養殖にチャレンジしてみようと考えています。真水だけでの養殖は可能か、味がどのように変化するかなど、まだまだ不確定な要素もたぶんにありますが、いろいろな可能性を試してみたいと思っております。

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<100トン水槽に餌をまく渋谷社長>