SHINKUMI PEOPLE: (写真:左から渋谷社長、石井順二糸魚川信用組合営業推進室長)
インタビュー・構成 全信組連新潟支店

平成29年1月に「新潟県建設業新分野進出優良企業」(新潟県の表彰)、平成30年3月には「NIIGATAビジネスアイデアコンテスト」でグランプリを受賞した「有限会社SKフロンティア」。同社は新潟県糸魚川市の土木事業者である㈱渋谷建設が、地域の特産物を輩出し、食を通じた地域活性化を狙い設立した会社である。地域資源である地下水を活用し農業(わさび栽培)と漁業(魚の養殖)を並行して行う事業は全国でも珍しい。斬新なアイデアと巧みな技術で夢に向かって挑戦し続ける、同社社長の渋谷一正氏にお話しを伺った。

土木事業から農業・漁業分野へ進出されたきっかけをお聞かせください

私が社長を務める㈱渋谷建設は、公共工事を中心に土木事業を請け負っています。公共事業縮小を背景に、経営の多角化を検討していた際、糸魚川市の地域資源を活かした産物を作りたいと考えたのがきっかけでした。糸魚川市は8割以上が山であり、この山がもたらす恵みは何かといえば、森林が浄化するミネラル豊富な水が地域資源であり、これを活かした事業を考えたときに、わさび栽培を思いついたわけです。
新潟の冬は雪が積もるし、ビニールハウス栽培では夏の温度上昇に耐えられないなどの理由から、これまで県内でわさび栽培をする農家は皆無の状況でしたが、「だったら俺が作ってやろう」というチャレンジの気持ちで始めました。わさびについては全くの素人であったため一から勉強し、試行錯誤の末、雪国のハンディを克服したビニールハウスの開発に成功しました。
農林水産省による6次産業にかかる補助金を受けるに当たっては、認定農業者でなければならないため、当時特殊セメントの販売代理店であった子会社「㈲SKフロンティア」を農業生産法人として新たに設立しました。

skfrontier-1.jpg
<渋谷一正社長>

経験のない農業をするに当たって苦労したことは何ですか

当初はビニールハウス3棟で栽培を行っていましたが、生産量を増やすために畑を広げようとした際、水利権(特定の目的のために、流水を排他的・継続的に使用する権利)の問題に直面しました。地上に見えるすべての水には権利が付いており、勝手に使用することはできません。わさびの畑を広げるためには大量の水が必要となりますが、これが認めてもらえなかったのです。このため水利権のない地下水を汲み上げて使うことを考案し、土木事業で培った技術を活かして現在の「省エネわさび栽培プラント」が完成しました。このような経緯で地下水を利用することになったのですが、怪我の功名と言いますか、逆に地下水のほうが天候に左右されず、年間を通して水量・水温が一定であることから、わさび栽培にとても適していたのです。
現在ではビニールハウス17棟を保有し、年間5万~6万本のわさびを出荷する北陸随一のわさび農園です。
わさびは病気にかかると黒い墨が入り、商品価値がなくなってしまいます。初めのうちは従業員もわさび栽培は素人であり、病気に対しての切実感がなく意識が低いものでした。こうした従業員の意識を変えるのに苦労しましたが、徐々に「何とかしなければ・・・・・・」という意識が従業員たちに芽生え、今では徹底して病気を見逃さない、予防しようという意識が共有化されました。植物の育成は、アクシデントで全滅する可能性があるなど大きなリスクも伴いますが、苦難を乗り越えた先には、育てる達成感、収穫の喜び、育成中の苦労等々を従業員と共有できるというところにこの商売の楽しさがあります。

skfrontier-2.jpg
<土木事業のノウハウを活かし建設中の「省エネわさび栽培プラント」>