大変な時期をどのように乗り越えられたのでしょうか?

これまでに三つの転換点がありました。まず、第一の転換点についてお話しします。
現在は自社商品となっている「SENSORET.F」は、もともとは大手メーカーが開発した商品でした。この商品の中には専用の電子回路の基板が入っており、そのCPUなどの半導体のデバイスが手に入りにくくなってきたことから、改善を含めた設計見直し依頼をいただきました。すると、「事業ごとやりませんか?」という話になり、特許や商標、販売代理店等を引き継がせてもらいました。これが初めて全国販売が可能な自社商品が手に入った瞬間でした。
販売代理店の販売網をそのまま引き継いだこともあり、注文に応じて出荷すれば売上が上がるビジネススタイルは、当社にとって大きな転換点となりました。また、自社商品は利益率が高く、受注型企業の特徴である納期や生産数に左右されることがないため、自社商品を持つ強みを、身をもって実感しました。現在は、学校・百貨店など、多くのお客様から毎日注文をいただいています。
しかしながら、利益率は良くても、当社の収益の柱とまでは言えません。また、当社の主力であるFA事業は景気動向に大きく左右され、納期の変更などもあるのが実情です。毎月安定した売上が立つような柱を作っていかなければ、会社を維持し、社員を守ることはできません。
こうしたなか、第二の転換点が訪れました。秋田県の「公益財団法人あきた企業活性化センター」のWEBサイトに定期的に掲載される受発注情報を確認していた際、自動車、電化製品をはじめあらゆる製品に使用されている部品で国内有数のシェアを持つメーカーが、同社商品の製造を請け負う企業を探しているという情報を見つけたのです。これを見て私は「毎月安定した売上が確保できる事業になる」と考えました。
県内からは5~6社が手を上げましたが、なんとか勝ち取ることに成功し、現在では、当初のねらいどおり、当社の収益の柱の一つとなってきています。
しかしながら、「下請業」である以上、生産計画が変わるおそれがあり、また、限られた人員のなかで利益を上げるには生産効率を高めなければならず、昭和時代の製造業のような肉体的負荷が従業員にはかかってしまいます。仕事をいただけることはありがたいことですが、ここ2年間はなんとかこの現状を変えていきたいと思っていました。
そこで第三の転換点が訪れます。当社では、世の中が渇望するほどの強力な自社商品の開発を目指してきましたが、その商品をどのように実現し、また、本当に売れる商品にするにはどうすればよいのか答えが出ませんでした。そこで、昨年、秋田県信用組合の紹介で、東北大学の地域イノベーションプロデューサー塾に参加することになりました。数ゕ月間にわたる研修は大変厳しいものでしたが「世の中に対してどのように価値提案をしていくか」ということから、それを実践していくためのマーケティングなど、さまざまなことを学べました。そして、研修を踏まえて作った四つの新商品開発にかかる事業計画からは、「人材さえ揃えば、当社を大きく成長させられるものだ」という確信を持つことができました。
ところで、話は変わりますが、新商品を開発するということは大変難しいものです。アイデアやマーケティングは私が考えられても、技術的なことや、商品の量産体制の構築方法、原価を抑えながらも良質な製品を作るためにはどのような仕入先がよいかなど、さまざまな知識が必要となります。当社が事業計画を進めるには、そうしたことを総合的に判断できる人材が必要でした。
そこで、偶然にも大きな出会いがありました。当社のお客様である上場企業で、当時は開発センター長を務めていた方が、定年退職した折に当社を訪れともに働くことを申し出てくれたのです。大きな未来を作るための人材が仲間になってくれたことは、新商品開発に向けて一歩を踏み出すきっかけになりました。
こうした運命的な出会いもあり、現在は世の中に新商品を送り出すべく、日々試行錯誤しています。

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創業当時から大切にしていることはありますか?

私が大切にしていること、そして、従業員にいつも求めていることは「会社に使われているという意識ではなく、会社は自分のものだと思ってもらいたい」ということです。
極端なことを言えば、経営者と従業員という関係はうまくいきません。「働く」ということには、さまざまな目的があると思います。しかし、「働く」ということは人生という限りある時間の中で、大部分を費やすものです。そのため、やりがいや達成感、そこで何を成し得るかといったことが重要だと私は思っています。そのためには、自らが考える理想に向かって、自由に組織の力や仕組みを使っていくことが必要で、それには「会社は自分のもの」だと思うことが大切だと考えています。
この考えが浸透しているからか、当社には経営に関することでも意見を言ってくれる従業員が多くいます。時には、「社長! それはおかしいんじゃないですか!」と私が叱られることもあります(苦笑)。でもそれは、「会社は自分のもの」だと思っているからこそ、出てくる言葉なのです。上の人間の方針をトップダウンで押し付けるだけでは、よほどの偉大な人でない限りうまくはいかないでしょう。また、「会社は自分のもの」だという強い意識を持っている人は、そうでない人に比べて顔つきや目つきが全然違います。
一方で、従業員のやる気を保ち、やりがいを感じてもらうこと、ひいては夢を持ってもらうことは、とても難しいことです。だからこそ、「会社は自分のもの」と思える環境と雰囲気作りには特に力を入れています。製造業は、限られた時間の中で一生懸命に物を作ることが売上に繋がる仕事ですから、時間はとても貴重です。しかしながら、その貴重な時間を割いてでも集まる時は集まり、従業員と意見交換の時間を設けるように心掛けています。

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