創業から一貫して試作品製作を行ってきたのですね

今までに取引先から幾度となく「試作品だけでなく、量産もやってくれ」と言われたことがあります。しかし、私たちの製造設備や人員配置は計画的な生産に向けたものではないため、そういった依頼はお断りしてきました。
量産工場であれば、案件ごとの発注数が多く、リードタイムもしっかり取れますから、引き受ける依頼の種類は少なくてすみますし、そういった意味では経営は安定します。しかし、私たちは量産工場のように大量生産のために労働資源を固定化せずに、短い納期に対応するための機動力を確保することを選びました。

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お得意様からの依頼を断るのは勇気が要ることでしょうね

量産工場に転向すると、事業形態から製造設備、従業員の配置に至るまで、すべてを今までとは変える必要がありました。確かに量産工場なら決まった期間内に同じものを大量に作るため、分業することが効率的です。しかし、短納期でひとつだけ作る試作品製作では1人が専任で受け持って対応するほうが早く仕上がります。私たちの経営資源では試作品の製作を専業にするしか方法がなく、試作品の製作に特化して仕事を続けるうち、しだいに今の事業形態を確立していきました。
私のなかでは「日新産業株式会社は試作品製作をやる」という一本筋をどのように貫いていくかを常に考えてきました。創業当初は会社の規模も今より小さく、一部の企業に対する比重も大きかったです。当時は家電関係の受注割合が大きく、安定した受注がありましたが、バブルが弾けると同時に業界全体が大きく傾き、当社も不況の煽りを受けました。これを契機として「試作に関することなら業界を絞らずに何でもやってみよう」という気持ちで、自動車業界の企業から仕事を引き受けたり、精密部品や医療分野でも取引先を開拓したりしてきました。このことが、現在の当社の礎になっていることは間違いありません。

現在は金属および樹脂であればお任せくださいと宣伝されていますね

創業当初は薄い金属を曲げたり切ったりする板金加工を取り扱っていて、その後に金属全般や樹脂も取り扱えるように製造機械を導入しました。金属だけにとどまらず樹脂も取り扱うようになったのは、お客様の需要に応えていった結果ですね。例えば自動車のドアノブ等がイメージしやすいかと思いますが、製品の中で重い金属を使っていた部分について、軽い樹脂で作れないかと要望があり、お客様の要望に応えるべく常に新しく製造機械を購入して対応してきました。
私たちは他社に比べて技術面で特化しているわけではありません。何が得意かと聞かれても、金属や樹脂についてなら大体のことはできますといった答えになります。金属だけ、樹脂だけではなく、どちらにも対応できることは特徴かもしれません。日新産業株式会社の長所は対応力と短納期です。

企業HPでは超短納期をアピールされていらっしゃいますね

試作品の製作には早さが求められます。メーカーが製品を量産する際、まずは試作品の段階で製品に問題はないか検査する必要があります。この検査に合格しなければ量産に移れません。メーカーは製品を極力早く世に送り出したいので、私たちはその期待に短い納期で応えます。
試作品はあくまで試作ですから、大量に作って売るといった商売ではありません。試作品から得られたデータを基に改良を加え、製品として満足できるものに仕上がれば用がすみます。そのため、ひとつひとつの納期はとても短く、また同じものを作り続けるということもありません。1ゕ月先の予定は全く分からないという状態が、創業以来から現在までずっと続いています。

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スピード重視は今も昔も変わらないのでしょうか

その傾向は今より昔のほうがより顕著でした。夜に依頼の電話があって、それに出られなかったら取引してもらえなくなってしまうんです。モノ作りの業界では土日に開発者が働いているのが当たり前で、例えば金曜の夜に依頼があって、月曜の朝に受け取りたいとか、深夜に連絡があって、今から取りに行きたいといったこともありました。
ただ、今でも「どうしてもこの部品がないと動かない」と言われることもありますので、その際は手を尽くして間に合わせます。台風で空港までの道が自動車で通れないのであればバイクで向かいましたし、海外に持っていかないといけないからと図面が入ったスーツケースを渡され、翌朝までに作って空港まで届けたこともあります。