お客様の笑顔と「ありがとう」の言葉が喜び

今の時代、各家庭にお風呂があるのが当たり前となり、逆に銭湯の数は減り続けています。そのような状況でも色々なしかけをすることで積極的に銭湯の魅力を発信してきた近藤さん。「嬉しいことにうちはお客さんが増え続けているんですよ。特に若い人が増えていて、ネットでの口コミもあるんでしょうね。スマホをかざしながら、『あったあった』『ここだここだ』と言いながら入ってくるお客さまもいらっしゃいます」

集客の秘訣は?とうかがうと、「コミュニケーションです」と明確な答えが返ってきました。「お客様の中には地方から出てきて一人暮らしをしている方たちもたくさんいらっしゃいます。お顔を見ながら『どうしたの?疲れてるんじゃないの?』なんて言葉をかけると、『いや、上司と折り合いが悪くてねぇ......』なんて話から発展して、ちょっとしたアドバイスになったり雑談に広がったりもします。中には『今日ここに来て初めてしゃべった』という方もいらっしゃる。そんな方たち同士がここでゆっくり過ごせるように、20年前からハーブティーを無料で提供しています。お風呂に入るのは20分、そのあとここでお茶を飲みながら2時間3時間と過ごされるお客さまも珍しくありません(笑)」

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銭湯の起源をたどると仏教の「施浴」にはじまり、室町時代には村の薬師堂や観音堂が風呂をわかして人々にふるまっていました。そして入浴後、人々は茶の湯や宴会をして楽しんでいたといいます。つまり銭湯ははるか昔から、人々が集い楽しむ場だったのです。はすぬま温泉はそんな銭湯の原点を、見事、現代に蘇らせました。

みんなの憩いの場を作るため、深夜1時まで営業をし、仕事を終えて寝るのは毎日3時頃という生活を長年続けてきた近藤さん。「特に子供が幼い頃は幼稚園の送り迎えなどもあって、寝てすぐに起きなきゃいけなかった。『子育てとは寝不足なり』が実感でした。それでもお客様の笑顔と『いい湯だったよ、ありがとう』という言葉を聞くと、銭湯をやっていて本当に良かったなぁとつくづく思います。それは昔も今も変わりませんね」

そして、銭湯業界を金融面から支えてくれている、公衆浴場業者のための信用組合「東浴信用組合」にも感謝しているといいます。「東浴さんは親身な対応をしていただけるので、なんでも気軽に相談できるところがいいですね。例えば、他の金融機関では嫌がられる日々売上の硬貨での集金などもやってくれるので、安心してお願いできます」

東京五輪の選手村にSENTOを

調理師の免許も持っているという近藤さん。次なる夢は、はすぬま温泉に地域の高齢者を招いて、温泉と食事を楽しんでいただくこと。目下のところ理事長の職務に追われ多忙な日々を送っていますが、「いつか必ず実現させたい」と意欲を語ります。

さらに将来に向けて大きな夢が3つ。「まず『SENTO』を世界共通語にすること。2つ目は東京五輪の選手村に銭湯を作ること。3つ目は1つといえども今ある銭湯を無くさないことです」『銭湯』という日本文化の灯を守り、世界中から訪れる人たちにも楽しんでもらうため、決意を新たにする近藤さんでした。

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