先代から一貫して愛知県中央信用組合との取引を続ける

愛知県中央信用組合(以下〈けんしん〉)とは、杉浦氏の父である先代の松三氏からの付き合いだという。昭和29年に〈けんしん〉辻支店が開設されて以来、一貫して取引を続けている。
「俺は1回も〈けんしん〉からよそ見をしたことはないけど、〈けんしん〉も資金需要が乏しい時でも足繁く通ってくれるからな」と杉浦氏は笑顔で言う。杉浦氏は金融機関だけでなく、問屋からの取引オファーの時も、まず相手の顔を見て、信頼できる企業・人間か、本当に同工房の黒七輪を取り扱う熱意を持っているかを見ているという。
「〈けんしん〉とは長い付き合いだが、他の金融機関とは違い、本当の意味で顔の見える関係だから安心して取引ができる。渉外ではない内勤の人が、異動するときにうちに挨拶に来たこともあるんだよ。だから、俺は金利だけでは判断しない。〈けんしん〉は口先だけ、上辺 だけじゃないから、これまで長く付き合ってこられた」
〈けんしん〉はフェイス・トゥ・フェイスを大切に、長い年月をかけて強固な信頼関係を築いてきたのだろう。

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「三河焼」を地域ブランド登録へ

また、〈けんしん〉は同工房も加盟している三河陶器協同組合へも支援を行っている。
同組合では現在、七輪や植木鉢など碧南市、高浜市で製造、焼成された陶器を「三河焼」の名称でブランド化すべく、特許庁に「地域団体商標」登録申請を進めている。当地は七輪の三大生産地の一つであるとともに、植木鉢の生産量は全国でもトップクラス。「三河焼」は平成30年9月、愛知県の市町村別地域産業資源として認められたが、PR不足もあり、知名度は高いとは言えない状況である。
こうした現状を打破すべく、同組合では「三河焼」の総合カタログを作成したほか、イベントへの出展強化、ポスターや統一シールの作成により、ブランド戦略を進めている。同工房も、災害備蓄品としての有効性を知ってもらうため、東日本大震災により甚大な被害を受けた宮城県塩釜市(碧南市と災害相互応援協定を締結)に黒七輪を寄贈。また〈けんしん〉は、地元金融機関として、連携協力に関する協定を締結している第一勧業信組が開催した「地方物産品販売会」で、「三河焼」の黒七輪と植木鉢出品の協力を行っているほか、新聞各社へ「三河焼」を取り上げてもらえるよう働きかけを続けている。〈けんしん〉は今後も、「三河焼」の産地活性化に向けたサポートを行っていくこととしている。

技術の伝承

昭和26年生まれの杉浦氏は今年で67歳。最後に後継者について伺った。
「息子たちは普通のサラリーマンをしている。周りからはいろいろ言われているみたいだけど、七輪作りではない人生を選んだ。まぁ、自分が選ぶことだからね」
杉浦氏は現在、黒七輪作りをしたいという人に技術を教えているという。今後の展望は「後継者を育成して、黒七輪を上手く伝承すること」だと杉浦氏は語った。日本でたった1軒、たった一人しかいない黒七輪作り職人。今後も〈けんしん〉とともに、三河焼の「黒七輪」作りの火を灯し続けていく。