SHINKUMI PEOPLE: (写真:左から、愛知県中央信組辻支店の神谷担当、杉浦氏)
インタビュー・構成 全信組連名古屋支店

七輪や植木鉢の一大産地である愛知県碧南市に大正5年より創業している「杉松製陶」の工房では、日本で唯一、七輪の中でも「黒七輪」と呼ばれる七輪を製造している。
ガスや電気の普及に伴い、七輪や火鉢などを作る製陶所が減少するなか、初代の祖父、二代目の父から引き継ぎ、伝統ある黒七輪作りを日本でただ一人守り続けている、三代目の杉浦和徳氏からお話しを伺った。

長い歴史があり、多くの魅力を持つ七輪

みなさんは七輪をご存じであろうか。現代では、知ってはいても使った経験があるという方は少ないのではないだろうか。
土製の七輪は、珪藻土の塊を切り出し削って作られる物と、粘土状の珪藻土を成型して作られる物の大きく2種類に分けられる。「杉松製陶」(以下、同工房)の七輪は後者の練り物製品となる。七輪の生産地は、同工房がある愛知県三河地方、石川県能登半島、香川県が三大生産地と呼ばれ、かつてはこの三大生産地が日本のほぼすべてのシェアを占めていた。
現代の七輪の形状・構造に近いものは江戸時代に作られたと言われており、軽量で小さく燃焼効率が高いため経済的な燃焼器具として囲炉裏やかまどに代わり、炊飯や焼き物などの調理を行う道具として普及していった。現在では、生活を支える道具ではなく、キャンプなど趣味の道具として使用される方が増えてきているほか、災害・非常時における防災グッズとしても注目を浴びている。
その七輪の魅力について、杉浦和徳氏(以下、杉浦氏)は「ガスや電気調理と七輪では味わい、身の柔らかさが全く違う」と語る。
「孫はガスで焼いた魚は食べないが、七輪で焼くと身がふわふわするから食べるんだよ。小さいころはよく、『おじいちゃん、七輪で魚を焼いて』とお願いしてきたもんだ」 
炭火料理の美味しさは炭火から出る赤外線の効果によるものである。さらに七輪は、素材となっている珪藻土からも赤外線が放射されるため、炭火料理の良さを引き出すきわめて優れた調理器具となっている。そのなかでも、杉浦氏が作り続ける「黒七輪」は、他の七輪にはない見た目の美しさと、機能性を兼ね備えた逸品である。

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1世紀にわたる製陶所「杉松製陶」

愛知県碧南市、高浜市は江戸時代から三州瓦の産地として知られており、瓦のほか、地元で採れる良質な三河土を原料とした七輪・火消しつぼ・ホーロク・植木鉢などの陶器類が製造されてきた。昭和初期には156軒の陶土器事業所があったが、需要の減少に伴い事業所は年々減少。地元の窯業事業者で構成する三河陶器協同組合の組合員数は、1970年当時100軒以上の事業所が加盟していたものの、現在では19事業所まで減少している。そのようななか、同工房は機械による合理化・大量生産が主流となっても一貫して手作りにこだわり、高品質の黒七輪を作り続け、全国各地から多くの支持を集めている。
現在、日本で唯一黒七輪を作る同工房は、杉浦氏の祖父である福太郎氏が副業として大正5年に創業し、二代目の父・松三氏が黒七輪作りを専業とし、姓と名からとって「杉松製陶」と名付けた。そして昭和52年に杉浦氏が三代目を引き継いだ。
「小さいころから黒七輪を作るのを見ていたが、跡を継ぐなんて全く考えもせず、25歳すぎまでサラリーマンをしていた。父が病気を患った際、取引先から跡を継いでくれと頼まれ、『皆がそこまで大事に思っているならば』と実家に戻り跡を継ぐことを決めた。引き継いでからは取引先に恵まれていることもあり、一度も黒七輪作りをやめようと思ったことはない」
三代目を引継ぎ40年以上。杉浦氏は日本でただ一人、黒七輪作りを守り続けている。

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