前頭葉の15%を活動させる

数多くの画期的な商品を開発することに成功し、萩原社長はこれまでに、600件を超える特許を取得しており、同社の社員からは「先生」と呼ばれている。同社の長浜取締役は「先生はパソコンをほとんど使わず、製品等の製作に当たっては、鉛筆と方眼紙と100円の定規・分度器のみで設計図等を書きあげています」と話す。萩原社長のアイディアは自然と無意識に浮かんでくることがあり、過去には製品を開発する夢を見たことがきっかけとなり特許取得に至ったものもあるという。ある大学の依頼により、萩原社長の脳を調査した結果、通常、人間の前頭葉は2~3%程度しか活動していないと言われているところ、萩原社長の前頭葉は15%活動しているとのことであった。脳の前半分にある前頭葉は、思考や創造性を担う脳の最高中枢と考えられており、脳全体の司令塔と言われている。萩原社長は長年、走っている車のナンバー前後2桁の引き算と掛け算や、スーパーマーケットの駐車場に駐車している車のナンバーや色を記憶し、翌日思い出す等の訓練をしているという。こうしたことが、前頭葉の活性化にも繋がっているのだろう。

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茂原市経済の活性化のために〈ぼうしん〉とタッグを組む

〈ぼうしん〉との取引のきっかけは、同社が頭を悩ませていた、製品の生産について検討をしているときであった。茂原市には、もともと日立製作所、パナソニック、東芝といった大企業の工場があった。その下請け、孫請けの中小零細の製造業が多く存在していたが、相次ぐ工場の撤退により、中小零細企業が取り残された状態となっていた。萩原社長は、その点に目をつけた。製品の開発は同社が担い、生産は地元の中小零細の製造業に委託しようと考え、茂原市にある中小零細の製造業とコンタクトを取った。
その際に、萩原社長が驚いたことは、多くの中小零細の製造業が〈ぼうしん〉をメインバンクとしていたことである。萩原社長は、地元企業が生産を行うことで、大企業の撤退により疲弊した茂原市経済の活性化に少しでも寄与したいとの思いから、〈ぼうしん〉とタッグを組んだ。その後、〈ぼうしん〉から、同社の製品を生産できる製造業数十社の紹介を受け、交渉を進めており、着実に生産態勢を拡大している。萩原社長は、「ウチと〈ぼうしん〉が取り組んでいるような、地域内でのビジネスマッチングによる産業育成こそ、地域金融機関がやるべきことではないか」と話す。〈ぼうしん〉を軸として、地元の製造業で生産をする態勢を整えてきたが、同社の製品が注目を集めるペースはそれ以上に速い。例えば、千葉県いすみ市では、ふるさと納税のお礼の品として、同社の「真空米びつ」に同市で採れたコシヒカリを詰めて送付し注目を集めているほか、食品のみならず、化粧品や洗剤の大手メーカーも同社の製品に興味を示している。同社にとっては、嬉しい悲鳴であるが、今後、さまざまな地域、場面で利用される可能性があり、そうなった場合は、現在の生産態勢では対応が難しい。萩原社長は、「全国の信用組合とその取引先の中小零細の製造業と手を結び、活用したい」と話す。「信用組合は地域に最も根ざした金融機関であり、その地域の製造業のことを一番よく知っている存在。当社の製品を大企業が採用することとなったときには、その地域の信用組合を通じ、地場の製造業を紹介してもらい製品を生産する。大企業には『地元』から納品する」。萩原社長は「製品の『地産地消』ができれば」と想いを語る。

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科学技術が発達したと評価される3つの課題に向けて

製造業と技術開発会社の2つの顔を持つ同社は、今後、技術開発会社としての事業を中心に展開する方針であり、生産については外部委託し、その管理・監督を行い、特許使用料や特許の売却等により収益を上げていく考えである。萩原社長は、同社が特許使用料や特許売却により多額の収益を上げた場合は、財団を設立し奨学金を運営したいと思っており、〈ぼうしん〉にも手伝いをお願いできればと考えている。長年にわたり、科学技術の発達に貢献してきた萩原社長は、「1万年後の人類が2017年の科学技術を評価した場合に『石器時代』だと言うだろう」と話す。「科学技術が発達したと評価されるには3つのことをクリアしなければならない。第一に化石燃料に依存しないエネルギー生産。第二に病気の克服。第三に食の保存。このうち、食の保存については、スタートを切れたと考えている」。萩原社長は、同社の製品である「食品真空保存容器」について、「製品ができるまで周囲は『食品を酸化させないなんて、できるわけない。無理だ』と口を揃えていたが 、現実にはできた。できないことなんてない」と語り、化石燃料に依存しないエネルギー生産についても考えを巡らせている。御年86歳の技術者が、近い将来、世の中の常識を覆すかもしれない。