お客様のニーズに合った修理を

西谷さんが時計修理技能士としていちばん大切にしているのは、「お客様のニーズに合わせて修理をする」ことだそうです。「遺品の時計を直して欲しい、かつて就職祝いに自分で買った時計を息子に譲りたいなど、持ち込まれる時計にはお客さまのそれぞれの想いがあります。部品を取り替えて綺麗に磨けば見た目は新品同様に蘇りますが、思い出の傷や使い込んだ風合いを大切にしたいという方もいらっしゃいます。ですから修理の際はお客様からできるだけ丁寧にお話をうかがって、希望に沿った修理をするように心がけています。安易に部品を交換しないで、手間隙かけてもできるだけ残っている部品を生かすようにしています」西谷さんの言葉に、「同じ時計を出来るだけ長く使ってもらいたい」という時計への深い愛情を感じます。

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「昔から使用している腕時計が最近すぐ止まってしまう、との修理依頼を受け、その時計を検査しても何も異常が見つからない。でも、お客様にご返却するとやっぱりすぐ止まってしまうとおっしゃる。そこでよく話をうかがってみると、自動巻きの腕時計で仕事が外勤から内勤に変わってめっきり動くことが減ったことが原因とわかったことがあります」その他にも同じようなケースで、若いころは活発だった人が大人になってあまり動かなくなったことが原因で、実際は壊れていないのに持ち込まれる時計もあります。このように、お客様のライフスタイルを知るためにも、丁寧なコミュニケーションは絶対に欠かせないそうです。

「あと、最近多いのは時計の磁気帯びによる故障です。時計は磁気に弱いものが多く、磁気を帯びることで時計が動かなくなったり、時間が狂ったりすることがあります。最近は携帯電話やパソコン、スピーカー、磁気ブレスレットなど磁気を発するものが増えていますので、その近くに長く時計を置いておくと故障の原因となります。修理に出していただければ磁気を抜くこともできますが、普段から腕時計の置き場所に気をつけていただいた方が良いかと思います」

丁寧に人を育てる

現在は修理の現場より経営に関わる時間が長くなり、人材の育成も西谷さんの大切な仕事になりました。
「昔の年配の職人さんたちは、技術は盗んで覚えろというタイプの人が多かったのですが、私はできるだけ丁寧に、専門用語の1つ1つから説明するようにしています。また私だけが指導するのではなく、色々な先輩がいてみんなそれぞれのやり方があります。たとえばピンセットの持ち方ひとつにしても、人によって教え方が違うかもしれない。だから絶対にこうしなくちゃいけない、ということはない。色々な人から教わって、その中で自分に合ったものを取り入れなさい、そんな話を最初にします」

丁寧な育成方針のおかげか、モントルには長く勤めている方が多く、実務経験が10年以上必要な時計修理 一級技能士が30人も所属しています。中には、海外の時計ブランドに憧れて会社を離れる人もいますが、時計メーカーの修理体制は分業制が多いため、ずっと同じ作業しかやらせてもらえず、「モントルでは色々な経験ができるから」と、再び戻ってくる職人さんもいるそうです。

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2017年1月、浜松町に新店舗を展開

大東京信用組合とモントルは、モントルの前身である「西谷商会」の頃からの長いおつきあいです。「この建物を紹介してくれたのは大信さん(大東京信用組合)です。もちろん他の金融機関さんともお付き合いはありますが、大信さんがいちばんこまめに、親身になって相談に乗ってくださいます」

2017年1月、モントルは創立50周年を機に、浜松町に自前の時計修理受け付け店舗をオープンしました。
「デパートでは修理を受け付けることができない時計も増えていますし、お客様から直接お話をうかがい、よりニーズに合わせて修理したいと思い、新店舗を開店しました。これがうまくいけばさらに店舗を増やしていきたいと思っています。」

最後に、西谷さんに個人的な趣味をお聞きしたところ、コンピュータいじりが好きで、子供と一緒にパソコンを自作したり、タイムレコーダーソフトを自分で開発して会社に導入し、非接触ICカードで勤怠管理ができるようにするなど、時計修理以外にも多彩なスキルをお持ちなことがわかりました。「個人的な夢ですか? そうですね......、もっと英語がしゃべれるようになりたいです。スイスで勉強していた時も、もう少し英語ができれば良かったと思っていましたし、実は先日、スイスで一緒に勉強していたスロベニアの友人が来日して久しぶりに会ったのですが、やはりもう少し英語がしゃべれればなぁと。近いうちに東京五輪もありますしね」
そう笑顔で語ってくださいました。