SHINKUMI PEOPLE: 服部全邦社長、盛月芳女将
インタビュー・構成 全信組連名古屋支店

江戸末期から続く「下呂温泉山形屋」は、下呂温泉の中で2番目に古い歴史を持つ老舗旅館である。180年もの長い時を受け継ぎ、磨かれた「おもてなしの心」は、常連のお客様はもとより、近年増え始めた外国人観光客にも深い感動を与えている。下呂の歴史を今に伝える9代目・服部全邦(はっとり まさくに)社長、奥様で上海出身の女将、盛月芳(せいげっぽう)さんにお話を伺った。

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下呂温泉の歴史は、とても古いそうですね

服部社長
下呂温泉は、今から1100年遡る延喜年間ごろ、傷ついた一羽の 白鷺 が下呂の街を流れる 益田川の川辺の湯だまりで傷を癒していたところから発見されたと言い伝えられています。その後、室町時代の禅僧である 万里集九の詩集「梅花無尽蔵」で紹介されたり、江戸時代の儒学者である林羅山によって有馬温泉、草津温泉とともに「日本三大名泉」として紹介されたことで、「下呂温泉」という名が日本全国に広く知られるようになりました。 
下呂温泉の泉質はアルカリ性で、温度は55.5度の源泉かけ流しの温泉です。ほのかに硫黄が香る無色透明な湯は、滑らかな肌触りが特徴で、冷え症や血行促進、疲労回復といった健康面に加え、美容面にも非常に優れた効果があると言われています。

下呂温泉山形屋は180年前の創業と伺いました

当旅館は、服部伊佐衛門により江戸時代の天保年間(1830年ごろ)に創業しました。この下呂温泉街において、現在も営業を続けるなかでは2番目の老舗旅館です。創業者である服部伊佐衛門の名は、「浪速講定宿帳」という、現在でいうところの旅行ガイドブックにも記載されており、安心して泊まれる宿屋として東海道を行き交う人々に広く親しまれていました。
当時は、宿屋といっても宿泊場所と食事を提供する旅籠と呼ばれる宿屋が一般的で、入浴は近くの共同浴場を使っていたようです。その後、桶で湯を運ぶことにより室内で入浴できる旅館ができ、電気が使えるようになると引湯設備を備えた内湯旅館ができました。当旅館も昭和7年に引湯施設を備え、内湯旅館となりました。旅館の建物は昭和26年に飛騨川を一望できる現在の場所に旧陶川閣を新築し、続けて昭和30年に大観荘、昭和42年には呂尚館を新築し、幾度かの増改築を行いながら、現在に至っています。

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温泉地への観光客が減少傾向にあると言われていますが、下呂はいかがですか

下呂温泉が観光地として有名になったのは、昭和5年に下呂駅が開業し、昭和9年にJR高山本線が開通したことが大きく影響しています。高山本線は南側が高山線、北側が飛越線として建設が進められ、両線の延伸により「飛騨高山本線」となったのですが、これにより大阪・名古屋方面と金沢・富山方面の両側から観光客が訪れるようになりました。飛騨高山本線の開通により右肩上がりに増えていた観光客数は、平成2年に年間165万人を記録したものの、ここ数年は100万人程度で推移しています。
しかしながら、近年、日本政府がインバウンド誘致に力を入れていることもあり、中国人をはじめとした外国人観光客が徐々に増えてきています。下呂温泉は四季折々の楽しみ方ができる温泉街です。春は樹齢四百年以上の「苗代桜」をはじめとした桜のライトアップ、夏には龍の神輿が炎と光の中を乱舞する大迫力の龍神火祭り、秋は温泉寺周辺のライトアップされた紅葉を眺めながらの足湯、冬は雪景色のなか旅館の露天風呂から眺めることのできる「下呂温泉花火ミュージカル冬公演」など、季節ごとに違った顔を見せてくれます。

下呂温泉山形屋を訪れるお客様は変わりましたか

当旅館のお客様は、以前は団体のお客様が主流だったのですが、今ではご家族やご友人といった個人のお客様が全体の80%以上を占めています。そのため、全部で71ある客室の多くは、少人数でご利用できるリーズナブルなお部屋となっていますが、ほかにも広々とお過ごしいただける特別室や露天風呂付客室をご用意しており、お客様のご要望に沿ったお部屋を選んでいただけます。また、大型バスでお越しになる団体のお客様のために使っていた駐車スペースを、到着・お帰りになるお客様のための待合スペースに改装したほか、飛騨川と下呂の街並みを見渡すことのできる Café&Bar「流」をオープンしました。ロビーの改装に合わせて設置した椅子や机は、 曲木技術を使った伝統工芸品である飛騨家具を使用しています。伝統工芸品を使うという本物志向でありながら、使いやすさや見た目の美しさも重視して、飛騨に工房を構える職人さんと私(服部社長)でデザインを考案していきました。
夕食や朝食の料理では、飛騨地方ならではの食材を味わっていただけるよう、ブランド牛である飛騨牛や郷土料理の朴葉味噌、そして時には「山の達人」と称される当旅館の従業員が採ってきた山菜をお出ししています。下呂は一日の観光客数が多く、食材の消費と仕入れの循環が早いため、山と海それぞれの旬の食材を、新鮮なまま堪能していただくことができます。

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