SHINKUMI PEOPLE: 萩原忠社長(写真:左から白井和房総信用組合理事長、萩原社長)
インタビュー・構成 全信組連本店営業第二部

ハジー技研株式会社(以下、「同社」)は「真空米びつ」をはじめいろいろな発明をし、たくさんの特許を取得しているというが、果たして、どのような会社で、房総信用組合(以下、〈ぼうしん〉)との関わりはどのようなものか、同社を訪問し、代表取締役社長である萩原忠氏(以下「萩原社長」)に話をお伺いした。

世界が注目する「真空米びつ」とは

同社の代表的な製品のひとつである「真空米びつ」は、特殊なプラスチック製の袋に手動ポンプが付属されており、見た目はとてもシンプルであるが、電気などを一切使わずに手動ポンプを約15秒間引くだけで真空の最高限界値である0.095Mpaの高い真空が得られ、米の鮮度を保ち、新米として一年中保存ができるものである。同社の「真空米びつ」には、萩原社長の2つの特許技術が活かされている。ひとつは「真空ポンプ機構」、もうひとつが「ノズル接続技術」である。「真空ポンプ機構」とは、袋の中の空気を吸い出したときに、逆流を防ぐ逆止弁がついているほか、コーヒー豆など発酵しながらガスを発生させるものを収納した場合に、ガスを逃がす役割を担っている。「ノズル接続技術」とは、真空ポンプを袋に接着する技術であり、こちらも、袋内に空気が入らないためのものである。同社の「真空米びつ」は世界から注目を集めている。インドにある高級日本料理店の場合、従来の容器で日本米を持っていってもすぐに虫が湧いてしまうが、「真空米びつ」を用いることでインドでもおいしい日本米の提供が可能となるため、同社に照会が寄せられたのだという。「これを使えば、食糧保存の難しい地域、例えばサブ・サハラ・アフリカなどの発展途上国における食の安定供給が高まる」と萩原社長は語る。

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約2000年前の古蓮実(ふるはすのみ)1粒が真空のアイディアを生んだ

萩原社長は、1931(昭和6)年生まれで、山梨県甲府市の出身。大学卒業後は、ガス、水道メーターの専門メーカーに勤務し、流体制御技術を習得し技術者として高い評価を得る。その後、1962(昭和37)年にアメリカの企業に招聘され、人類初の月面着陸に成功したアポロ計画に参加。油圧機器の劣化防止装置の開発を担当した。アポロ計画には5000人以上の技術者が世界中から集められたが、「ハギハラ」では外国人に名前を覚えてもらえないため、「ハジー」と呼ばれるようになり、後に設立する「ハジー技研」の名前の由来となった。
当時の日本は高度経済成長期で、製鉄、鉄鉱、石油、電力、化学、原子力、鉄道等の基幹産業が一斉に始動したが、流体制御(濾過、分離、混合、劣化防止)の専門技術者は皆無の状態で、経験のある萩原社長に仕事が集中した。萩原社長は長年にわたり日本の経済成長を支え続け、大企業の技術顧問を務めるなど第一線で活躍した。
萩原社長の人生の転機は69歳のときに訪れる。体調不良のため病院で診察を受けたところ、余命半年と宣告されたのである。闘病に当たっては、暖かいところでゆっくりしたいとの思いから、千葉県茂原市に移住。その後、約2年間の入院を経て奇跡的に回復した。この闘病経験が萩原社長に、「生きた証として、役に立つものを後世に残したい」と考えさせるようになった。
萩原社長は、2001(平成13)年、自身の技術者としての集大成として、特に「食の保存」に着目し、同社を設立する。萩原社長が、「食の保存」に着目した理由は、「腐ったものばかり食べていた」と振り返る終戦後の食糧難の時期の経験により、長年にわたり「食の保存」について高い問題意識を抱えるようになっていたからである。
萩原社長が「食の保存」と「真空」を結びつけたきっかけは、1951(昭和26)年に千葉県検見川の東京大学農学部厚生農場内(現在の東京大学総合運動場)の地下約6メートルの青泥層から発見された約2000年前と推定される古蓮実1粒が、発芽・開花に至ったというニュースである。この古蓮実の見つかった地層はさまざまな条件が重なり、「真空状態」となっていた。植物の種子は、「真空状態」になると呼吸を止め休眠状態になる性質があり、空気に触れると再び呼吸をするという。このため、約2000年前のものであるにもかかわらず、古蓮実は休眠状態となり、生命が保たれていたのだと言われている。

さまざまな製品に活かされる特許技術

設立後の早い段階から、萩原社長の想いを具現化した発明・特許はさまざまな場面で活用される。2003(平成15)年から2009(平成21)年に行われた自衛隊のイラク南部のサマワへの派遣では、防衛庁(現在は防衛省)から同社に対して無菌水筒の開発依頼があった。通常の水筒では、水を飲む際に唾液が逆流する等により、外部から菌が混入してしまい、外気温が60℃に達するサマワでは、半日で水が腐り、自衛隊の任務に支障を来す。そこで、同社では水を飲む際に逆流せず、外部から菌の入らない真空無菌水筒を開発し、2万個を納入、自衛隊の任務を支えた。
また、この真空技術を活かした製品として、オリーブオイル専用真空保存容器を開発。オリーブオイルの中でも最も新鮮とされる「エクストラバージン」は、国際基準によりオリーブオイルの酸度が定められているが、同社が外部機関に依頼し実施した検査によると、通常の容器で「エクストラバージン」のオリーブオイルを保存した場合、その酸度は1年程度で「エクストラバージン」の規格から外れてしまう(酸化する)。しかし、同社のオリーブオイル専用真空保存容器で保存した場合、1年以上ほとんど酸化せずに「エクストラバージン」の規格を満たすことが確認されている。
なお、ある輸入オリーブオイルを同様の検査にかけたところ、開封時の酸度が「エクストラバージン」の基準から大幅に外れているものもあったという。これは、ヨーロッパから日本に輸送される途中で酸化が進んでしまったことが原因と考えられるが、国産のオリーブオイルの生産量が限られている日本では輸入に頼らざるを得ないため、これまで輸送による酸化は仕方がないとされていた。萩原社長は、同社のオリーブオイル専用真空保存容器で輸送することにより、日本にも新鮮なオリーブオイルを流通させることができると意気込んでいる。

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