SHINKUMI PEOPLE: 西谷孝宏さん
時計修理 一級技能士、スイスWOSTEP認定技能士、株式会社モントル 専務取締役

時計修理のスペシャリスト集団

東京都中央区築地にある株式会社モントルは、時計の修理を専門にしている会社です。社屋の1階から5階まで、シーンと静まり返った作業場では、大勢の時計修理技能士が国内外のありとあらゆる時計の修理に取り組んでいます。「社名のモントルはフランス語で腕時計の意味です。腕時計から置時計、柱時計、見たことのない外国製品など、我が社にはありとあらゆる時計が持ち込まれてきます。すべての時計が直せるわけではありませんが、どんな状態のものでもなんとか直したいという気持ちで取り組んでいます」そう話してくれたのは、株式会社モントルの専務取締役・西谷孝宏さん。西谷さんのお父様が昭和42年に興した会社は2017年に創立50周年を迎え、日本でも有数の時計修理会社に成長しました。銀座和光と関東のそごう4店舗に時計修理コーナーのテナントを出店しているほか、セイコーのお客様相談室からの紹介で回ってきた時計の修理も担当しています。

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時計にはさまざま種類があり、例えば江戸時代に作られた和時計。当時の時計は今と違って日の出、日の入りで時刻を刻んでいました。そのため昼が長い夏と短い冬では、1時間の長さが変わってきます。「和時計はその季節による差を、日の出になると自動的に切り替えて調整できる仕組みになっています。当時の技術はすごいなぁと思いますね。こうした和時計もそうですが、部品が残っていないものは、新しく部品を作って修理していきます」

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時計が息を吹き返した瞬間が好き

子供時代は電気製品を分解するのが好きだったという西谷さん。特に稼業を継ぐという意識はないものの、大学では好きな電子工学を専攻。それでも大学3年になり自分の将来を考えた時、「せっかく父が起こした会社なのだから」と、後を継ぐことを決意したそうです。「でも、入社してもすぐに時計の修理をさせてはもらえず、時計の裏蓋に文字の彫刻をする作業を何年もさせられました。文字彫刻といっても、裏蓋の材質やデザイン、厚みなど、時計によって本当にまちまちですから、加減調整も難しくて非常に奥深いんです」

その後、大きいクロック(置き時計や掛時計など)の修理業務にまわされたという西谷さん。「初めて修理の現場に立った時はバラバラに分解された時計の部品を見せられ、父親から『組み立ててみなさい』と言われました。普通はその逆で、バラしながらその時計の仕組みを知っていくものなんですけどね(笑)」以来、ベテランの職人に指導されつつ、様々な経験を積み重ねながら、入社して6年後に時計修理1級技能士の資格を取得。現在の合格率も2~3割とかなりの難易度ですが、当時はさらに狭き門です。実技のときは緊張してピンセットを持つ手が震えたとのこと。その後スイスに渡って半年間時計修理を学び、現在最高峰といわれる時計技術資格である「スイスWOSTEP認定技能士」も取得したそうです。

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「修理の要はひげゼンマイのうずを上手く作っていく作業です。ぐちゃぐちゃに丸まっているものは交換しますが、折れ曲がっているものはピンセットで丁寧に伸ばしたりしながら巻いていきます。それをはめ込んで時計が動き出した瞬間は、今まで止まっていた心臓が息を吹き返したような感じで、いちばん好きなタイミングですね」