SHINKUMI PEOPLE: (写真:左から江口本所支店長、下田氏)
インタビュー・構成 全信組連本店営業第一部

10年後も着られる『いいもの』を作ろう!――「株式会社10YC」は2年前、大手アパレル会社に勤めていた26歳の青年が立ち上げたアパレル製品の企画・生産・販売を行う会社である。大量生産・大量消費に疑問をもち、「着る人も作る人も豊かになる」世界を目指して、商品価格の透明化や製品作りの見える化を徹底して行っている。国内のアパレル市場規模が縮小の一途を辿る厳しい環境のなか、革新的なコンセプトで顧客の心をつかんでいる下田将太氏に、事業への想いを伺った。

隠さずに、全部見せたい

創業のきっかけは、ある違和感からだった。
「アパレル業界って、このままでいいの?」
大手アパレル製造小売会社に勤めていた下田将太氏は、大量生産・大量消費のアパレル業界に疑問をもった。安いけれど耐久性のない服、消耗品として消費されていく服。作り手の顔が見えない服。
「もっと、製品の一つひとつを大切にする仕組みにしていかなければ、いけないのではないか?」
下田氏は、ものづくりのまち、「伝統とモダンな技術が生きる町」として知られる東京都墨田区に、アパレル製品の企画・生産・販売を行う「株式会社10YC」を立ち上げた。当時26歳。「10YC」とは「10 Years Clothing(10年後も着られる服)」の意味で、下田氏の強い想いが込められたものだ。
「私たちは、常設店舗や自社工場を持たない会社です。製品は、基本的に自社EC(電子商取引)を使って販売しています。製造に関しては、製造委託先の工場と直接取引を行うことで、中間マージンを省き、安くて質のいい商品を提供することをスタンスとしています。
また、すべての商品の価格は、原価から詳細に公表し、消費者に対して正直な姿勢を貫いています」。
買ってくれる人にはすべてを見せる、というのが10YCのこだわりである。なぜこの価格になっているのか、生地に係る費用、裁断・縫製に係る費用などはすべて公開し、買い手の納得を得たうえで手に取ってもらうのだという。
ではなぜ、価格を詳細に公表しようと思ったのだろうか。
「購入する時に、お客様が一番気になるのは価格だと思います。でも『いいもの』は高い。私たちの商品にもそれなりの値段がついています。
でも、『いい製品だから、この価格で販売します』というだけでは、お客様に納得してはいただけません。そこで、私たちの会社では、お客様に納得して購入してもらうために、価格の内訳を公表しているのです」。
アパレル製品のほとんどは、なぜその価格が設定されているのかが、買い手の立場からはわからないと下田氏は語る。本当に品質が良くて高いのか? それとも、中間マージンなどで値段が上がってしまっているのか? 売り手からしか見えていないのが現状だ。
この商品価格を詳細に公表するという取組みは、さまざまなアパレルメディアに取り上げられ、10YCは起業当初から、新進気鋭の企業として注目された。

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自分が着たいと思うものを売りたいから、妥協できない

下田氏は、今のアパレル業界では、「売ること」だけを考え、「着ること」を軽視した服が作られているのではないかという。
たとえば、1回洗濯をしただけでヨレてしまうような服。アパレル製品のほとんどは、消耗品として扱われているため、安い値段でたくさん売って、利益を得るようなビジネスモデルになっているケースが多々あると、下田氏は考えている。
「でも、アパレル製品だって、車や家電のような耐久消費財として扱われるような、『いいもの』を作って届けたい。私たちは、そんな思いを込めて製品を作っているのです」。
そう語る下田氏の活動は、多岐にわたる。
10YCの製品は、ベーシックなデザインで、品質にこだわっているため、直接手に取ってみないとわからない部分がたくさんある。しかし、常設店舗を持たない同社は自社ECを中心に販売しているため、消費者に自社の製品を直接手に取ってもらう機会が少ない。そこで、同社は、全国のさまざまなイベントに出品し、自社の製品を直接、手に取ってもらえる機会を積極的に設けているという。
また、10YCは自社工場を持たないため、下田氏は自分が納得できる製品を作ってくれる工場を探し、全国を飛び回わっている。工場へは、必ず、「行ってみる」。そして、その工場で作られる製品を、手で触り、隅々まで確かめるのだという。
「創業何十年の老舗であるより、自分が納得できる製品を作っているかどうかが決め手です」。
そうやって、自分が納得のいく製品を作ってくれる会社に、生産をお願いしているのだと下田氏は語る。
「私たちは、作り手(工場)の方に支えられているところが多いと思っています。だから、自分たちのこだわりに応えてくれる、作り手の環境を大切にしていきたい。
作り手の環境を豊かにすることも、私たちの使命だと考えているのです」。
10YCのホームページでは、製品作りを委託しているすべての工場を紹介している。染付・縫製・染色の各工程で、作り手たちがいかに「いいもの」を作る会社であるかがわかるものだ。作る人を大切にする下田氏の想いが感じられる。

10YCの6つのポリシー ―『いいもの』を着てもらいたい

5年、10年と、身に付けてくれる人とずっと同じ時間を歩んでいけるような、『いいもの』を作りたいというのが、下田氏の強い想いである。
「有名じゃなくても、『いいもの』は、必ず、誰かを夢中にさせられます」。
でも「いいもの」って、なんだろうか? 解釈は人それぞれ。それでは、自分たちが作る「いいもの」の定義とは何だろうと考え、10YCでは6つのポリシーを掲げたのだという。
① 顔にくしゃくしゃしたくなる

洋服は毎日着るものだから、肌触りが良くないといけないと思っています。いつも選んでもらえるように、肌触りの良さを追求しています。
② 動きたくなる

10YCの服は主役ではありません。着てくれる人の毎日が楽しくなるように助けるのが役割。だからこそ、着ているときにストレスを感じてほしくない。動きやすい服で毎日どこかに飛び出したくなる洋服を作ります。
③ マイナス1

増やすことよりも減らすこと。何か機能をつけるのではなく、着る人の毎日の面倒くさいを一つ減らすことが10YCの役割。一つの面倒くさいを解消することで、毎日の生活を豊かにします。
④ 家で洗える

気軽に洗える、簡単にお手入れができる。わざわざクリーニングに出さなくてもいいように。当たり前のことかもしれないけど、当たり前のことを大事に。乾燥機は洋服が痛むので、やめてあげてね。
⑤ 馴染んでいく

自分のモノになっていく服。着れば着るほど、調和していく服。それは使う素材、仕様で変わっていきます。10YCでは買ったあとも、できるだけ変わりなく使ってもらえるかを大切に、素材や仕様の選定をします。
⑥ アフターフォロー

着ていくうちに、どうしても避けられない汚れやほつれ、摩耗。そろそろ替えどきかな? そう思っても簡単には捨てないでほしい。10YCはまたリフレッシュして着られるようなサービスを準備しています。それは、幅広くアフターフォローができるように商品設計をしているからです。
これら6つのポリシーもまた、同社の理念「私たちについて」として、商品やイベント情報とともにホームページで公表され、製品を手に取ってもらう多くの人々に対して、常に発信されている。
「私たちの考え方は、商品を買ってくれた人にしっかりと伝わっていると思っています。SNSに、『待ちに待った10YCの商品が届いた!』と写真をアップしてくださる人や、イベントに来てくれた人から、『いや~、10YCの服、いい感じですよ』といったコメントを頂くこともあります」。
そうした声は純粋にうれしいし、たくさんの人に製品を届けていることが実感できる、と下田氏はいう。ただ、こうした顧客の声は、いいものばかりではない。
「お客様からの苦言についても、まずは話を聴くようにしています。そして、自分たちのブランドにプラスになるものについては、取り入れるようアクションを起こします。
すべては『いいもの』を作るためなのです」。

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